静岡県選手権2011開催リポート・番外編その1


 第三部:静岡選手権2011、みとっぽ参戦記(前半)

はじめに

2月13日(日)開催の「静岡選手権2011」に参加しました。浜松クラブ代表の鈴木陽介さんとはJCA大会で面識があり、昨年のチーム選手
権をきっかけに親交が深まりました。クラブHPの「第10回全日本チーム選手権参戦リポート」(注1)にちらちら私の名前が出て来ます。因
縁浅からず、水戸と浜松は遠く離れているものの、「今回は参加してくれるのでは、と密かに思ってました」(鈴木陽介さん談)そうで、以心
伝心でした。かくして交流第一の大会参加ですが、しかしやはり大会ですから、出るからには恥ずかしくない成績を収めるべく、そこそこ定
跡のおさらいをしつつ、『浜松ぐるぐるマップ―保存版グルメ総カタログ200』(注2)を買って準備万端、整えました(笑)。

(注1)http://hamachess.kagebo-shi.com/page050.html
(注2)静岡新聞社刊
http://www.amazon.co.jp/%E6%B5%9C%E6%9D%BE%E3%81%90%E3%82%8B%E3%81%90%E3%82%8B%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%97%
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82%B0200-%E9%9D%99%E5%B2%A1%E6%96%B0%E8%81%9E%E7%A4%BE/dp/4783819173/ref=pd_rhf_p_t_1

アルザスの思い出

茨城県水戸に住む私は前夜に浜松入りすべく、12(土)朝7時48分水戸発の特急に乗り、上野着9時11分。東京駅に移動して9時56分発
の「こだま」に乗ります。車体は流線型の700系。「なんとまぁ、ハイカラな。昔は「ひかり」と「こだま」は車体が違ったけれど」と、老人なら
ではの感慨にふけりつつ(笑)、久しぶりの新幹線に心が躍りました。

浜松着11時57分。まず宿にチェックインし、近所の洋食屋さんでランチをささっと済ませ、そして向かうは「アボンダンス」。前記『浜松ぐるぐ
るマップ』によれば、「フランスのアルザス地方出身のエベルレ・ベルナールさん」が経営するケーキ屋さんで、「味の組み合わせは多くて
も2種類まで」と「メインの素材をはっきり主張させたケーキ作りが信条」だそうです。店名の「アボンダンス」はフランス語で「豊穣」ですか
ら、日本語ならば「実りの秋」。自然の素材を大切に使うケーキ屋さんなのでしょう。2006年から7年にかけて仕事で半年間アルザス地方
に滞在した私にとっては大注目で、今回、チェスに並ぶ重要な旅の目的でした。(注3)

お店は、市の中心部から歩いて40分ほどの郊外の、中区住吉町にあります。途中に浜松城跡や信貴山など、おそらく歴史ファンなら一度
は行きたい名所旧跡が幾つもありましたが、元祖スイーツ男子の私はわき目も振らず(笑)、一路ケーキ屋さんを目指します。
国道沿いに、綺麗なブルーのお店がありました。店はそれほど広くはありませんが、丹精込めて作られたケーキがショーケースに見事に
並べられ、見ているだけで幸せ気分です。楽しく目移りしながらケーキとクッキーを買い、レジで精算する時にオーナーのベルナールさんと
ちょっと話したら、
「私もチェスは大好きですが、浜松では指す人がいなくて残念です。」
と言うので、浜松チェスサークルのことを話すと、身を乗り出して来ました。残念ながら明日の日曜は店があるので行けないが例会には出
たい、と言うので、店の名刺をもらい、翌日の大会会場でクラブ次期代表の秋永さんに渡しました。どのくらいの強さかわかりませんが、好
きこそものの上手なれ、クラブの新たな常連となりそうです。
(注3)http://homepage3.nifty.com/abondance/jp/index.html

URに冷や汗

2月13日(日)朝、宿泊先のビジネスホテルの朝食バイキングでは、浜松名物「うなぎごはん」を堪能しました。おかずは「静岡おでん」。普
段の朝食はトーストにコーヒーなので、新鮮な非日常を体験しました。これも旅行のだいご味ですね。朝から浜松の味を満喫して、いざ、出
陣です。
大会会場「ザザシティ」は浜松駅から歩いて5分。行きはもちろん、大会が終わったらすぐに列車に乗れる好立地で、遠征者にはありがた
い場所です。
初戦開始は9時30分で、相手は中村祥子さん。UR(レーティング未定)ですが、序盤からしっかりとした指し回しで、思わずこちらも気を引き
締めました。対局後に聞くと、「ネットで5年くらい前から指している」そうで、さもありなん。冷や汗をかかされました。

□中尾祥子UR
■神田大吾1756
静岡選手権2011(1)

20 Bd4 Nd7(図1)



黒はワン・ポーン・アップで、さらにc5の白ポーンも落ちそうで、やや楽観気分でNe5-d7と手拍子で引いたのは危険でした。20… Nc4と
(d6地点に効かせながら)そちらに動くべきでした。なぜなら、

21 Bxg7 ! 

残り時間の切迫した局面でこんな手を狙っているところに、実戦経験の豊富さを感じました。UR、恐るべし!

21...Bxg7 22 Nd6+ Ke7 23 Nxc8+ Rxc8  

技は決まったものの、結果的にルークが捌け、大事には至らなかったのが私にとって幸運でした。

24 Ra2 [24 Rc1] 24...Rxc5 25 Qb3 Qc6 26 g3[26 h3] 26...Ne5 27 Qb4 Nf3+ 28 Kg2 d4 0-1

最後は相手の時間切迫に助けられ、なんとか勝利。まだ20代前半とおぼしき中村祥子さん、これからの活躍に期待します。

35年ぶりの対局

昼過ぎに始まった第2ラウンドの対戦者は藤澤寛さん。かつて、互いにチェスを始めたばかりの1977年から78年にかけて、郵便チェスで対
戦したことがありました。メールの今とは違い、ハガキに一手ずつ書いてやり取りし、一局に一年ほどかかる気長な勝負でした。「たしか、
シシリアンのドラゴン変化だった」と、たちまち記憶がよみがえり、昔話に花を咲かせていると、そばで聞いていた鈴木陽介さん曰く、「ボ
ク、まだ生まれていません」・・・ううむ、子供ならともかく、こんな大人ですらまだ生まれていなかった頃なのかぁ、と、自分らのトシを意識
せざるを得ませんが、でも、大会の常連で今も元気に活躍中のS藤さんやM井さんのことを思い出した藤澤さんと私、「僕らもまだ、あと30
年は現役だね」と納得し合いました。

□藤澤寛1812 
■神田大吾1756
静岡選手権2011(2)

ダッチ防御レニングラード変化[定跡分類A88]

1 c4 f5 2 Nc3 Nf6 3 Nf3 d6 4 d4 g6 5 g3 Bg7 6 Bg2 0-0 7 0-0 c6 8 b3 Qa5 9 Bd2 Qc7

黒はクイーンを、一手で行けるc7にa5-c7と二手かけて移動しますが、白もd2のビショップをもう一度動かすことになるので、手損にはなり
ません。プロの実戦譜にある既成手順です。

10 Rc1 e5 11 d5 Na6 12 a3 Nc5 13 b4 Nce4 14 Nxe4 Nxe4 15 Be1 Bd7

黒は右のナイトを交換して捌き、満足しましたが、この楽観が後に悪手を呼びます。

16 Nd2 Nxd2 ?

つまづきの第一歩。窮屈な陣形は、駒を消し合うことでほぐれますから、白を助ける疑問手でした。16…Nf6と引くべきで、そこで白が17 e4
と来ても、17…f4と反撥し、攻め合いになれば黒に不満はありません。

17 Bxd2 Rae8 ?! 18 Qb3 Kh8 ?

黒は悠長に駒組みを続け、無防備のまま。次の白の手を見て愕然とします。下の参考図はR.Damaso vs.K.Spraggette, Andorra 2007で、
13 Nxe4 Nxe4とナイト交換した局面です。

<参考図>


図以下、実戦では白はあくまでe6の穴を狙って14 Ng5 ?!と跳ねましたが指し過ぎで、「14 Be3と交換を避けるべきだった。それでも黒は
14…c5と返し、白は対応に頭を悩ませることになるだろうが。」(注4)
実戦は14 Ng5以下14… Nxd2 15 Qxd2 c5 !「白から先に16 c5 あるいは 16 dxc6 bxc6 17 b5とラインを開く手を防ぐ好手」(Neil
McDonald)を境にして黒がゲームの主導権を握りました。
(注4)Neil McDonald, Play the Dutch, Everyman Chess, 2010, p.129.
これらを考え合わせますと、黒は早くに…c5と指しておくべきでしたが、それを怠ったため、

19 c5 ! 

先制パンチを食らってしまいました。

19...e4 20 b5



ポーンの取り方が色々あって、悩ましい。黒にとっての最善は・・・

20... cxd5 21 cxd6 Qb6 ?

もしも21…Qxd6 ならば22 Bb4でクイーンとルークの串刺しを食らってダメ、と速断しましたが、さにあらず。フリッツ君は「それでも取れ」と
言います。即ち、21…Qxd6 22 Bb4 Qe5 23 Bxf8 Rxf8で、白がやや指しやすい。つまり、黒も十分戦える程度の差である、と。局面をじっ
くり眺めてみれば、なるほど、ビショップとルークの交換損ながら、黒は中央のポーンが手厚く、次に…d4と突き出す狙いがあり、勝負はこ
れからでした。

22 Rc7 Qxb5 23 Qxb5 Bxb5 24 Rb1 ?

遊び駒の活用を急いだのが仇。単に24 Rxb7でした。以下24…a6 25 Rb1 Be5 26 a4 Bxa4 27 Bh6 Rg8 28 R1b6 a5 29 Ra6で形勢互角
(Fritz)。この変化手順中、25 Rb1には感心しました。局後の感想戦では藤澤さんも私も25 Rc1しか考えませんでした。ルークは(二枚を横
に並べるため)cファイルから進攻するものとばかり思い込んでいたのです。25 Rb1は、こう回った瞬間は縦に二枚が重なりますが、パスポ
ーン(d6)を守りつつ、黒の手に乗ってa6に回り込み、先手先手を取りながらa7に置く狙いです。

24...Bc6 25 Bg5 Be5 ?

甘い手。25…Rc8 26 Rxc8 Rxc8 27 d7 Bxd7 28 Rxb7 Be6 で黒が優勢(Fritz)。本譜はd6のパスポーンを黒が取り切ってしまえるかどうか
がポイント。

26 Be7 Rg8 ?  

心身に疲労が蓄積して来る終盤に特有の、ふらついた手。ここは当然26…Rf7で、以下…Kg7とルークに紐を付けつつキングを中央に寄せ
るべきでした。

27 f4 Bd4+ 28 Kf1 Rc8 29 e3 Bg7

26手目の悪手…Rg8の咎。ルークがキングの進路を塞いでいるため、ビショップが斜線を変えると白からBf6+とされて即死するので、退
却。ただ、29 e3は黒の反撃を誘発する危険な手でもありました。

30 Kf2 Rge8 ??

本局にもしも負けていれば、これが敗着となるところでした。30…Rxc7 31 dxc7 Rc8 32 Bd6 d4 33 exd4 Bxd4+で、次にBb6からBxc7と
ポーンを取る順を狙えば黒が優勢でした。



31 Rbxb7 ?

白は形勢逆転のチャンスを逃しました。正着は31 Rxc6 ! です。31…Rxc6 [31…bxc6 は32 d7の両取りが激痛] 32 d7 Ra8 33 d8/Q+
Rxd8 34 Bxd8 d4 35 exd4 Bxd4+ 36 Kf1で、局面が落ち着けば、ビショップ一枚の得がものを言います。ポーンの数と形が違うので、白
が勝ち切るまでにはまだ山あり谷ありですが。

31...Bxb7 32 d7 Rcd8 ??

c8のルークを支えながら逃げる手(32…Ba6)が、全く見えませんでした。

33 Bxd8 ? 

しかし白も間違えました。普通にポーンでルークを取り、駒得主張で十分。

33...Rxd8 34 Rxb7 d4 35 exd4 Bxd4+ 36 Ke1 Kg7 37 Bf1 Kf6 38 Bb5 Ke7 39 Rc7 Bb6 40 Rc8 h6 41 Ke2 g5

ポーンを相手ビショップとは異色の升目(取られない場所)に置いた所で私がドロー・オファーし、白も承諾してくれました。二人とも持ち時
間を一杯に使い、頭も体もぐったり疲れましたが、スポーツしたという充実感は得られたゲームで、めでたし、めでたし。

1/2-1/2


寄稿日:2011年2月20日
掲載日:2011年2月23日
校正日:2011年2月25日
著者;神田大吾さん
編集:鈴木陽介


 第四部:静岡選手権2011、みとっぽ参戦記(後半)

無難なメインライン

午後三時開始の第3ラウンドのお相手は、藤澤さんの「愛弟子」で、既に100局以上の対戦があるそうです。「今ではレーティングで抜かれ
ちゃってねぇ」と、藤澤さんは嬉しそうに話していました。

□神田大吾1756 
■高田侑一良1826
静岡選手権2011(3)

ルイ・ロペス、ベルリン変化[C67]

1 e4 e5 2 Nf3 Nc6 3 Bb5 Nf6 4 0-0 Nxe4 5 d4 Nd6 6 Bxc6 dxc6 7 dxe5 Nf5 8 Qxd8+ Kxd8 9 Rd1+ Ke8  

ルイ・ロペスのベルリン変化。白番1.e4を試行錯誤中の私は、こてこてのメインラインを選択しました。

10 b3 h6 11 Bb2 Be6 12 Nc3 Be7 13 Ne2 c5 14 Nf4 Rf8 15 Nxe6 fxe6 16 c4 Rf7 17 Rd3 Rd8 18 Rad1
Rxd3 19 Rxd3 Nh4 20 Nxh4 Bxh4 21 g3 Be7 22 Kg2

1/2-1/2

疲労感の漂う一局。前のラウンドで長時間のゲーム(高田さんはvs倍井さん)を戦って体力を消耗した同士の対局にはありがちですが、お
互いに突破口を見つけられないまま終局。内容のあるゲームは次の対戦に持ち越しとなりました。

次のラウンドまで小一時間あるので、栄養を補給します。JCAの普段の大会ならばコンビニで買ったチョコレートで済ませますが、浜松まで
来てそれでは勿体ない。会場を出てすぐ次の交差点を曲がって少し行った所にある「邑」に行きます。地元老舗の和菓子店「巌邑堂」(注
5)が店舗に併設して開いた和カフェです。22席の店内のお客さんは、見事に全員が女性でした。時ならぬ不審人物の来店に、一斉に驚
きの視線を注いできますが、こんなことでひるんで怖気づくようでは男がすたる(笑)。平然とメニューを見つめ、あれこれ楽しく迷った末に
「白玉あんみつ」を選択しました。本当は「季節限定 冬のあんみつ」にも引かれましたが、雪をイメージした白い地肌がヨーグルトだそう
で、和洋折衷に腰が引け、ここでも無難なメインライン「白玉あんみつ」630円を選択したわけです。白玉の上に、巌邑堂の看板商品のミニ
どら焼きも乗って、大満足の逸品でした。かくして体力回復、気力充実して最終第4ラウンドに臨みます。
(注5)http://www.ganyuudou.com/

若武者に元気をもらってハッピー・エンド

同星同士を組み合わせるのがスイス式ですから、最終ラウンドの私の相手は同じ2ポイントの三村さんです。お互いに、勝てばシード権が
取れそうだが、負ければ終わり、ドローならば他の選手の結果次第、という状況ですが、ゲームが始まればそんな胸算用はきれいに忘
れ、互いに盤面に没入しました。

□神田大吾1756
■三村健介1815
静岡選手権2011(4)

クイーンズ・インディアン防御ペトロシアン変化[E12]

1 d4 Nf6 2 c4 e6 3 Nf3 b6 4 a3 Bb7 5 Nc3 d5 6 cxd5 Nxd5 7 Bd2

主流として多く指されて来たのは7 Qc2と7 e3ですが、今日はこちらを選択します。「ポーンの形を重視した手法。e4とd4にポーンを並べつ
つ、c3はビショップで取り、bxc3と形が乱れるのを避ける作戦」(注6)です。
(注6)Peter Wells, The Queen's Indian(Chess Explained), Gambit, 2006, p.84.

7...Be7 8 Qc2 Nd7 9 e4 Nxc3 10 Bxc3 0-0 11 Bd3 ?!

早くに形を決め過ぎたようです。
参考図はA.Riazantsev - M.Carlsen, Warsaw(EUch.)2005で、黒が11...Rc8の局面です。

<参考図>


実戦ではここから 12 Bc4 ! Nf6 [12…c5 13 d5 !] 13 Bd3 c5 14 dxc5 Rxc5 15 0-0 Qa8 16 Rfe1と進みました。12 Bc4 !はナイトをずらし
て黒の反撃…c5を緩和しようという「手順の妙」(Peter Wells, p.84)で、単に12 Bd3 c5 13 d5では13…c4 !があり、13 dxc5と取っても13…
Nxc5と取り返され、跳ねたナイトがビショップに当たってしまいます。
これから類推すると、本譜では11 Rd1と指し、右のビショップの移動はもう一手待つ方が良かったようです。

11...c5 12 d5

そのままにして12 0-0 cxd4 13 Nxd4 もあったと思いますが、強く応じます。そもそも、d3のビショップに本丸を直射されていながら11…c5
と指した手には、「勝負!」の掛け声、若武者の気迫を感じました。気合いには、気合いで応じます。



12...exd5 13 exd5 h6 14 0-0-0 

ルビコン河を渡り、もう後には引けなくなりました。白にはd5のポーンを「守る」つもりはありません。黒に取らせて手を稼ぎ、ラインを開いて
攻め手を繋げるという方針で指します。

14...Bf6 15 Bb5 ?

フリッツ君によれば最善は15 Rhe1、次善は15 d6です。私の15 Bb5は更にその下の、いわば次々善でした。ここで形勢を損じたようです。

15...Bxc3 16 Qxc3 Nf6 



ここが本局の大きな分岐点でした。予定は17 Bc6 か17 d6 でしたが、いずれも17…Ne4 ! があることに気付き、ドキッとしました。クイーン
に当たるだけでなく、f2も狙ってます(ルーク両取り)。その上、もしも…Nd6と引かれると、パスポーンを完全にブロックされてしまいます。こ
んな反撃を許すわけにはいきません。苦吟の末、自陣に手を戻します。こうなってみれば、戦いを始める前に準備しておくべき(15 Rhe1)だ
ったことが分かりましたが、覆水盆に返らず。

17 Rhe1 Qd6

黒は慌てず、じっくりポーンを取りに来ます。最善(Fritz)。

18 Qe5 

この一手。パスポーンの守り駒(Qd6)を消しつつ、eファイルからルークの進入を目指します。
この局面で、白の残り時間は19分、黒は15分となりました。中盤の難所で、お互いに時間は幾らあっても足りません。

18...Rfd8



19 Qxd6 Rxd6 20 Re7 ?

拙速。20 Bc6 Bxc6 21 dxc6 Rxc6 22 Re7 Rcc8 がまさりました。
d6のルークが浮いているので、d5のポーンを取らせ、ピンを利用して手を作る、というアイデアでしたが、あっさりピンをはずす手(…Re6)が
あることを見落としていました。

20...Bxd5 21 Ne5 a6 ?

逸機。21...Re6 ! 22 Rxe6 fxe6 23 g3 a6 24 Bd3 c4 25 Bg6 Kf8 26 f4 Ke7 で黒がはっきり優勢です(Frtiz)。

22 Bc4 Rad8[22…Re6]  23 Nxf7 Bxf7 24 Rxd6 Rxd6 25 Rxf7 Rd4 26 Be6 Kh7

ここで三村くんがドロー・オファー。私の残り時間は10分で、彼は僅かに45秒。切れ負けではなく30秒累加加算ですから、ビショップvsナイ
トに期待して、スポーツとしてはもう少し指し続けてもよかったかも知れません。でも、私としては久しぶりに充実したゲームが指せて満足
しました。静岡での私のベストゲームだったと思います。

1/2-1/2

福原愛選手をお手本に

こうして全国大会行きの切符をもらうことができました。よそから来た人間がシード権を持って行くのは申し訳ないような気がしましたが、で
も、昔馴染みの藤澤さんが辞退した結果、回ってきた権利ですから、ありがたく頂戴します。
 
2004年のアテネ・オリンピックにて、卓球の福原愛選手の試合後インタビューを今、思い出しています。敗戦後、楽しめましたか?の記者
の質問に対し、「私は楽しむために来たんじゃありませんから」ときっぱりと答え、私は心の中で拍手喝采しました。スポーツ
選手がストレスを分散するため、「試合を楽しみます」と言うのは理解できますが、でも、代表選手(予選で他の選手を蹴落とし、他人の夢
をつぶして出場する選手)が「それを言っちゃ、おしまいだよ」といつも不満を感じていた私ですので、福原愛選手の凛とした物言いはとても
新鮮ですがすがしく、私はそれ以来、彼女のファンとなって応援しています。
 
五月の全国大会。私にとっては3年ぶりの参加となりますが、楽しむためには参加しません。「静岡代表」の名に恥じぬよう、これからも精
進を重ね、体調に気をつけて頑張ります。
 
浜松チェスサークルの今後ますますのご発展を祈念しつつ、
(おわり)


寄稿日:2011年2月22日
掲載日:2011年2月23日
校正日:2011年2月25日
著者;神田大吾さん
編集:鈴木陽介


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