静岡県選手権2013を振り返って



題名:静岡県選手権2013を振り返って

はじめに

ビショップを残すか、ナイトを残すか(第3R)

そこにいてくれた幸運(第4R)

寄稿日:2013年3月8日
著者:みとじんさん

発行日:2013年3月9日
発行:浜松チェスサークル


静岡県選手権2013を振り返って

神田大吾 

はじめに


静岡選手権に出場するのは2011年に続いて二度目です。

今回の旅の目的の一つは「浜松市の東側、アクト通り周辺を探検すること」(笑)でして、大会前日、土曜の昼過ぎに浜松に着いた私は、
先ずは老舗の鰻屋さんで「うなぎ茶漬け」を堪能。それから近隣のパン屋さんを物色(翌日に昼食を買う予定)してから、「楽器博物館」
(浜松市中区中央3-9-1)を見学しました。

これが"大当たり"でした。たまたま訪れた時間帯に、昔の楽器クラヴサン(国によってチェンバロとも、ハープシコードとも呼ばれる)の
実演説明会が催されたのです。

ここに写真を張り付け

(写真の出典はhttp://fr.wikipedia.org/wiki/Clavecin

クラヴサンは17〜18世紀、ルイ14世などフランス王家の黄金時代に宮廷で盛んに演奏された定番の楽器です。フランス文学の教員
という仕事柄、その名前は知っていましたが、実物を目の前でじかに見るのは初めてです。実際に音を聞きながら、学芸員さんの説明を
受ける貴重な体験。おまけに博物館併設のショップでは、このクラヴサン演奏を過去に録音したCDも売っていたので、ホクホク顔で買い
込みました。水戸に帰ったら授業の中でこのCDを学生に聴かせながら、「鳥の羽の堅い部分で弦をはじいて音を出す。特にカラスの羽が
よく使われた」とか、ピアノと違って「音の強弱は出せない。鍵盤を強く叩いても、弱く押しても、ほぼ同じ音が出るのが特徴なんだ」とか、
物知りオヂさんを演じられます(笑)。

「たまたま」その場に居合わせた幸運。今回の浜松遠征ではこれに何度も救われることになろうとは、この時にはまだ夢にも思いません
でした。


ビショップを残すか、ナイトを残すか(第3R)

□ 神田大吾 1697
■ 倍井隆行 1763
静岡選手権2013 (3)

3月3日(日)、午後三時開始の第3R。午前の第1Rと第2Rに連勝した同士の対戦です。17...Rc8 (c3のポーン取り)18.Bd2(守る)と
進んだ局面が次の図です。

ここに写真を張り付け

白はこれから右サイドに駒を集め、黒キングの本陣を攻めます。白が攻勢を見せつつも、実はポーンの弱点a3とc3を抱えているので、
攻めが止まれば自然に黒が優勢になるという、ニムゾ・インディアン定跡特有の形で、形勢はほぼ互角でしょう。

18...Nc4

ゲーム中、この手を見て、「ありがたい。ラッキー」と感じました。

一般にはナイトよりもビショップの方がやや力が強いので、ビショップを残そうというのは妥当な選択に思えますが、白の立場からすれば
逆にナイトをc4に残される方がイヤでした。白の攻めの根幹e5のナイトと交換を迫られるからです。

ここは18...Bc4が正着でした(理由は後述)。

実戦では18...Nc4以下
19.Bxc4 Bxc4
20.Re4 Nf6
21.Rh4
と進みます。いささか単純ながら、h6地点に駒を足す「数の攻め」。

21... Kh7 ?

キングが自らポーンを支えます。将棋用語で言う「王様の顔面受け」ですが、見落としでした。

22.Re1 ?

しかし白も気付かず、遊び駒の活用を図るのみ。

22... Qe7 ?(図)

a3のポーン取りを見せつつ、白の攻めを催促した手ですが、逸機。22…Bd5と移動しておけば、勝負はまだ分かりませんでした。

ここに写真を張り付け

試合の山場です。黒の頑強な抵抗に遭い、攻め方が分らない。どこでRxh6+と切るか。ポーンをg2-g4-g5と突いて行くにはクイーンが
邪魔。どうしたらいいのか・・・と悩んでいたら、「あれ?」、全く別の方向の手が見えました。

23.Nxc4
1-0
白の手を見て、黒の倍井さんはしばらく考えた末にリザインしました。23…Rxc4 24.Qd3+の両取りがあるからです。
土壇場でたまたまこの手に気付いた私の幸運の勝利でした。

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Fritz君の予想変化手順

もしも18...Bc4(変化図)ならば、どうなるか?

ここに写真を張り付け

19.Bb1

a5にいる黒ナイトをさばかせるわけにはいかないので、かわす。

19...b5

白a3のポーンを固定。ますます「普通のエンディングになれば、白が負ける」形。

20.Qf3

次にNxf7+を見せて、中央で威張っているd5の黒ナイトを後退させよう、と。

(1) 20... Nf6 ?(図)

ここに写真を張り付け

f7地点にフタをしつつd5を空け、次に...Bd5と白クイーンに当ててから...Nc4とする反撃手段を含んだ良い手に見えて、実は悪手。
なぜなら・・・

21.Bxh6 !

はぁ? 何を考えてるの?

21... gxh6
22.Qf4 Kg7
23.Re3 Rh8
24.Rg3+ Kf8
25.Rf3(図)

ここに写真を張り付け

ここまで示してくれると、私もようやく納得しました。21…gxh6でポーンがずらされて浮いたf6のナイトと、f7の地点との「ダブル・アタック」
です。25…Kg7と戻れば26.Ng4なので、支えられません。結局、白は初めにビショップを捨てても(21.Bxh6)、ナイトを取り返せるので、
差し引き1ポーン得。さらにこの先、恐らくf7のポーンも(縦ピンのせいで)落ちるので、2ポーン得になり、大いに優勢です。エンディング
でもこれなら白が勝てるでしょう。

(2) 正着はf7地点をルークの横効きで守る20…Rc7だそうです。以下 21.Bc2 Nb3 22.Bxb3 Bxb3 23 Rab1 Bc4 24.Qg3 a6 などとなって
形勢互角の戦い(Fritz)。

もしも実戦で20... Nf6となれば、白の私が上記の攻め手順を見付けられるはずがありません。
Fritz君に「手の作り方」を教えてもらいました。
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そこにいてくれた幸運(第4R)

□ 藤澤 寛 1842
■ 神田大吾 1697
静岡選手権2013 (4)

3戦して3ポイントを挙げるという予想外の展開ですが、次のゲームがとても大切です。なぜなら、全4試合の大会では、3連勝して1位に
なっても、第4Rを負けて3ポイントのままだと3位入賞すら出来ない、というのが松戸クラブの大会でしばしば起こっていたのを知っていた
からです。

さりとて、ドロー狙いは禁物。たとえ0.5ポイントあればいい立場でも「あくまで勝ちを目指さないと、危ない」というクラムニクの言葉を思い
出しました(DVDソフトMy path to the top、ChessBase社発行より)。

いつもどおり積極的に指そう、と臨んだ第4Rで22.c5 Qc7 となった局面がこちらです(図)。

ここに写真を張り付け

黒には中央にパスポーンがありますが、駒がばらけ、キング回りが薄いので、危険と背中合わせ。チェックしながら飛び込んで来る
Rf7+とかNf6+に常に気を付けねばなりません。他方、白はコンパクトにまとまって堅いですが、特にg2のビショップが働いていないのが
泣き所。互いに一長一短があり、形勢不明のいい勝負です。

24.Qd3

a2のポーンは捨て、駒の展開を優先する勝負手。

24...Bxa2 ?

さんざん迷ったあげく、「駒が取れるのに、取らなくて、どうする?」と、気合いで取りました(苦笑)。でも、冷静に見返せば24...b5として、あ
くまでナイト展開を阻止するべきでした。

25.Nc4 b5

「ナイトが飛んでから突けば、ポーンを(アンパッサンで)取れない」から良い、と読みましたが、読み抜けでした。戻って24...b5 に25.cxb6な
ら 25...Qxb6と応じ、bファイルが開くのはむしろ黒にとって好都合なのでした。

26.Nb6

白は当然、ナイトがこちらに飛びます。それは分かっていたのですが・・・

26... Rd8
27.Nd5
と手順に中央に戻って来るのを完全に見落としていました。

27...Qg7
28.g4(図)

ここに写真を張り付け

黒はナイトの退路を絶たれ、駒損は必至。せめてポーン1枚の損くらいで収め、なんとかドローを狙おう、と懸命に考えていたら、たまたま
ビショップがいい位置にいることに気付きました。

28... Bc4
29.Qd2 Bxe2
30.Qxe2

駒取りの先手、先手と迫りながら、f4に効いている駒を一つ消します。それでもまだ白はナイトとルークの2枚がf4に効いているのでポーン
損は止むなし、と覚悟しましたが、諦めきれずにもう一度よく見れば、「あれ?」、たまたまクイーンがいい位置にいることに気付きました。

30...Nf4
31.Nxf4 exf4 (図)

ここに写真を張り付け

白はf4のポーンを取れません。もしも32.Rxf4と取ると32...Qe5とピンを掛けられ、33.Qf2 g5でルークが落ちるからです。こんな駒の配置
になっていたのが私にとって幸運でした。

32.Rf3 Qe5
33.Qd3 Bg7 ( = )
1/2-1/2

残り時間が白7分で黒2分のここで私がドロー・オファーをしたら、「はい、いいですよ」と藤澤さんはすぐに受けてくれました。局面は黒が
1ポーン得ですが、試合中はこの先をどう指していいか分からず、申し出を受けてくれて心底からホッとしました。

こうして3勝1ドローの3.5ポイントとなり、全国大会のシード権を取ることが出来ました。第1Rも第2Rもゲーム中に「目の前が真っ暗に」
なりましたが、よく見れば「たまたま駒がいい位置にいた」お蔭で勝てました。ご覧のとおり、第3Rと第4Rも同様です。なんだか、向こう
一年間のツキを今大会の4試合で使い果たした気もしますが(笑)、まぁ、それでもレーティング・スタート順位が6番目でありながら1位
になれて、念願のシード権を取れたので、めでたし、めでたしです。五月の全国大会では静岡代表の名に恥じぬよう、これからも精進を
重ねて精一杯頑張ります。

表彰式と記念写真撮影が終わって会場を後にしたのが夜8時。浜松駅に着いたのが8時7分。ちょうどホームに止まっていた8時11分発
の「ひかり」に間に合いました。初めから終りまで「たまたまそこにいる幸運」に恵まれた浜松の旅でした。

末筆ながら、サークル代表の秋永さんのご尽力に篤く御礼申し上げます。大会の運営に一人で当たりつつ、参加人数を偶数にするため
自らも選手として出場されたご努力には頭が下がります。お蔭さまで全てが順調に推移する快適な大会となりました。
どうも有難うございました。(終わり)


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