FM渡辺暁氏のチェスレクチャー・リポート



開催日:2009年10月31日(土)
開催場所:静岡県浜松市中区 静岡県西部地域交流プラザパレット ミーティングルームD

主催:浜松チェスサークル
講師:FM 渡辺 暁 氏
補助:浜松チェスサークル代表 鈴木陽介


11:30 開講

主題 シシリアンディフェンスの基本形における急所について
(次の1手 その1 その2 その3 その4 実戦譜 総論

12:30 記念撮影
12:35 閉講


作成日:2009年12月30日
編集:浜松チェスサークル代表 鈴木陽介
発行:浜松チェスサークル


シシリアンディフェンスの基本形における急所について

まず、1.e4 に対して1... e5 とせずに1... c5とする最大の理由は、
全く同じ形でいくわけではなく、黒としてはクィーンサイドから攻めるのというのがアイデアの1つです。
しかし、それ以上にセンターからの反撃が大事だということをこれから説明します。

今回は、シシリアンディフェンスの基本形におけるごく僅かなアイデアについて学びます。
どんなオープニングでもただ単に手順を覚えようとするだけでは意味がありませんし、終わりません。
知るだけではコンピュータ時代の情報戦では役に立ちません。

1. e4 c5 でもし定跡を知らなければ、
2. f4 Nc6 3. Nf3 g6 4. d3 Bg7 5. Be2 Nf6 6. O-O



と進むかもしれません。

それでは本題に入ります。
1. e4 c5
2. Nf3 d6



2... d6でc5のポーンを支えます。

3. d4
この手が最もポピュラーですが、これが悪手であると言ったGMもいます。
白としては中央のポーンとの交換になりますが、ナイトが中央に出ているので白満足です。

3.... cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3



5... e6 or a6
最近は5... e6よりも5... a6とする方が実戦例が多くなってます。
なぜなら、5... e6には6... g4とする手がとても強力だからです。
(当然ですが、5... a6で6. g4とすると6... Bxg4とされてポーンを失います。)

カスパロフが世界チャンピオンだった当時、在位期間を通してシシリアンを指し続けました。
彼のお陰でシシリアンが発展し、研究が進んだと言っても過言ではありません。

5... a6 6. Be2 e6 7. O-O Be7 8.f4 Nc6



ところで8... Nc6と8... Nbd7では随分違ってきますが、今回は(時間の関係上)8... Nc6を解説します。

9. Be3 Qc7
(O-Oが先でも良い。)

10. a4
黒からb5とクィーンサイドのポーンを突く手を阻止します。

10... O-O 11. Kh1
斜めの線からの反撃を事前に回避します。

さて、ここで次の一手を考えてみましょう。
この定跡をやる人でも、この次の一手を知らない人が結構います。



最善は、11... Re8です。

理由としては、Cファイルが使えそうで使えないことが挙げられます。
ですから、、黒は中央から反撃するのが最善の策です。
11... Re8は気づきにくい手ですが、この静かな手は非常に大事です。

12. Qe1
さて、ここでも次の一手を考えてみましょう。



(以下、参加者の回答です。)

回答1.
12... d5 13. e5 Nd7 14. Bd3
で黒不満です。ちなみに白の次の狙いはQg3です。

回答2.
12... Bf8 13. Qg3
とQg3を簡単に許してしまうのでダメです。

回答3.
12... e5 13. Nf5 Bxf5 14. exf5 d5 15. fxe5 Qxe5
これだと黒良しとなってしまうので、
12... e5 13. Nxc6 bxc6 14. fxe5 dxe5 15. Bc4
これでやや白良しです。(すぐに何かある訳ではないが、f7のマスが弱いため。)
よってこれも正解ではありません。

回答4.
12... b6 13. Nxc6 Qxc6 14. Bf3 e5 15. f5
これは次にQg3とされ、キングサイドを攻め立てられるので黒不満です。
白マスビショップをb7へ展開する手は、ナイトをc6に展開していない場合
においては有効ですが、今回は違います。

回答5.
12... Nxd4
これが正解です。以下、
13. Bxd4 e5 14. fxe5 dxe5 15. Qg3 Bd8
と進展し、これでルークをe8に回した理由がe5のポーンを守る為であることがわかりました。



その後、
16. Be3 Be6 17. Bh6 g6
などのように展開し、黒としては特別良くも悪くもありませんが、すべての駒が働いています。


それでは、ここでこのラインの急所(キーポイント)をおさらいしましょう。

@ルークをe8に回す。
Aナイトをc6へ展開し、黒からNxd4と交換してからe5を突き、センターから反撃する。

この場合、ナイトをd7へ展開してしまうと、白のd4のナイトがずっと残ってしまうので良くありません。
黒のクィーンサイドのナイトより白のd4のナイトの方がずっと強いからです。
よってNc6は相手のグッドナイトを牽制する意味で重要です。

黒にとって一番大事なのはクィーンサイドからの攻めではなく、センターからの反撃ですので、
Re8という一見地味な手がとても大事です。

それではもう一つ、先程の展開で白がポーンを交換せず、
12… Nxd4 13. Bxd4 e5 14. Be3
とした場合の次の一手を考えてみましょう。



(以下、参加者の回答です。)

回答1.
14... Be6
これは、15. Bf3と白の白マスビショップに方向転換されてしまいます。
白のこの手の意味としては
@d5のマスを抑える
A次に15... Bc4とビジョップの交換を強要された時に16.Rf2とかわすことができる。
よって黒不満です。

ちなみに、クィーンサイドから攻めるというのが黒の一番の狙いだという意見がありますが、
黒はセンターから反撃するのが最善であり、あまりこだわり過ぎるとよくありません。

回答2.
14... exf4 15. Bxf4 Be6
とポーンを交換した後はどうでしょう。
(白マスビショップをe6へ展開する理由としては、15... Nd7とナイトを先に引いてしまうと
16.Nd5と先手で飛び込まれてしまうからです。)

正解です。以下、
16. Bd3 Nd7 17. Qg3 Ne5 18. Bh6 Bf8 19. Nd5 Bxd5 20. exd5



となり、これでは白不満ですので、
16. Bd3 Nd7 17. Nd5 Bxd5 18. exd5 Bf8 19. Qg3 Ne5 20. Rae1



と以上の様に、17. Qg3とする前に先にナイトが飛び込んだ場合の次の手を考えましょう。

(以下、参加者の回答です。)

回答1.
20... Rac8
21. Bf5とされてしまうし、いつでもできる手です。

回答2.
20... Nxd3
これは確かにありますが、(現時点で黒のe5のナイトの方が価値があるので)この交換はもったいないです。

正解は、20... g6です。これには2つの意味があります。
@ビショップを展開する。
A相手のスレッドを切る。
ここで仮に白から21. Bxe5 dxe5と逆色ビショップにしてきた場合、21… Bd6と中央からビショップ展開します。

一般的に終盤で逆色ビショップの場合は、ドローになる確率が高くなります。
ただ、中盤においては優位な方がよりその優位さが増しますので、主導権を握りたければ逆色ビショップに
した方が有利な場合もあります。

ともかく、20... g6の時点でのポジションを考察すると、
@白の白マスビショップのスレッドはg6で止められている。
A21... Bg7の後に白からBxe5と交換してきたら、同じくBxe5とビショップで取り返す選択肢もある。


今度は、白がa4やkh1を怠った場合の例を見てみましょう。
これは昔、私が黒番でチリのFMと対局した際の棋譜です。

1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 a6 6. Be2 e6 7. O-O Be7 8.
f4 Nc6 9. Be3 Qc7 10. Qe1 Nxd4 11. Bxd4 b5 12. a3 O-O 13. Qg3 Bb7 14. Rae1 Rad8?



14... Rad8?
ここでは14... Rae8とするべきでした。

15. Bd3?
ここでは先に15. Kh1とするべきでした。
そうすれば、黒の1手前の悪手を咎めることができ、
白優勢となるところでした。

15... e5 16. fxe5 Nh5 17. Qe3 (17. exd6 Bxd6 18. Qg4 etc...)
17... dxe5 18. Bb6 Qc8!



なんと白はビショップでルークを取ることができません。(19. Bxd8?? Bc5 0-1)
黒としては、白がKh1の手を抜いてくれお陰で助かりました。


それでは、最後にもう一度このラインでのキーポイントを整理します。

@ルークをe8へ回す。
これを指せるかどうかが後に効いてきます。
これは、Bf8と守り駒の道をつくるという別の意味合いもあります。

Aナイトをc6へ展開する。
Nxd4はいつでもうまくいくわけではありませんが、白のd4のナイトはとても強力なので、
ナイトをc6に展開することにより、交換できるようにするか追い払うかする必要があります。

Be5を突く
これが効くかどうかは、このラインにとって非常に大事です。
但し、シシリアンのバリエーションや局面によっては、これがe5ではなくd5に変わってきます。


今回は、シシリアンディフェンスの基本形における急所について、以上の3点を中心に学びました。
ただ、最も重要なことは、「手順は必ずしも正しいとは限らないので100%信じないでください。」
ということを付け加えて、本講座を終了します。


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